女の子。
唇が離れたあとで小島が言葉を反芻する。
長いまつげを揺らして、瞬きをした。はじめてその言葉を聞いたみたいに。子どもみたいなその仕草が妙にツボに入った。どうしよう。今なら彼女の一挙手一投足にときめける自信がある。たった一つの言葉で小島は「女の子」になった。
長い付き合いのの中でずっと彼女との関係を進展させるチャンスを図っていたのだ。みすみす失うわけにはいかない。今まで並んで歩くことはあっても、手を繋いだことは一度もなかった。小島はもう友達ではないのだ。
「ねえ、隣座ってもいい?」
ローテーブルを挟んだ向かいのソファで俺は立ち上がった。
「・・・もう来る気満々じゃない」
呆れたように小島が呟く。
「まあね」
彼女の言葉はどんな些細なものを聞き逃さない。今夜だけは。
ニッと笑ってから俺はグラスを持って小島の隣に収まった。すると小島は体一つ分横にずれた。
「あ、なんでそっち行っちゃうの?」
「近いから」
「近寄るためにこっちきたのに」
「近すぎる」
眉間に皺を寄せて小島がじっと見つめてくる。
「・・・わかった」
俺は降参という風に両手をあげるとソファにぽすっと背中を預けた。
「ありがとう」
小島がほっとしたのがわかった。なんだこの子。どうしよう、かわいい。と同時にちょっといじめたくなる。もっと困って。俺のことで困って。俺のことだけ考えて。
「どこまでなら許してくれるの」
「・・・・どこまで?」
「キスはしてもいいみたいだけど、その先は?触ってもいい?」
「・・・ダメ」
少し考えてから小島は答えを出した。
「ダメなの?」
「ダメなの」
「・・・なんで?」
「無理、はずかしい、死ぬ」
そう言った小島は頬を赤く染めていた。
とりあえず小島から視線をはずす。ほんの一時間前の彼女とはうってかわってしまった。もちろんいい意味で。なんかもういとおしい。
頭をぐるりと回して考える。
・・・・・さて、どうしようか?

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