そういえば、と気づく。
有希からまだなにも聞いていない。好きだとも嫌いだとも。一応彼女の意見を尊重しているつもりだけど(下着姿にして押し倒したあとじゃ首をかしげられるかもしれないが)
「有希は?」
「え?」
「有希は俺のこと好き?」
また瞼をぱちぱちとやって有希が黙った。 もちろん自信はあるけれど。なければこんな風にしたりしない。大事に大切にしたりしない。
「わかんない」
「わかんない?」
「けどたぶんすき」
「ん?」
「だって藤代がもしこうやって同じことを他の女の子にやってたら嫌だから。触らないでって思うから」
本人にその気は全くないのだろうけど、会心の一撃だった。男慣れしてないのは明白なのでなにも計算してないだろう。
俺がまあ浮かれていることを差し引いても、ささいな嫉妬でさえかわいい。
だからこそなんだか今では惜しい気がするし、やっぱりやりすぎだ。
「・・・今日はここまで」
有希の手を握る。 「俺はね、もう君を一生、手放したくないと思ってる」
俺はゆっくりを上体を起こした。有希の額の形が好きだなあ、なんて思いながら。
「だからまだもう少し待つよ」
「有希が素面で俺に好きだって言ってくれるまで、我慢しとく」
「デザートは最後に食べる主義なの、俺は」
有希の額に音を立てて口付ける。
「バスルーム使っていいよ、着替えも棚にジャージとかTシャツが入ってるから好きなの着て。あと冷蔵庫の中もご自由に。水とか果物ぐらいなら入ってるから」
驚いた有希が身を起こした。肩が寒そうなのでソファのブランケットをかけてやる。
「藤代は・・?」
力の入らない頼りない声だった。決意が揺らぎそう。
「俺はちょっと走ってくる」
放り投げてあったナイキのジャージにさっさと着替える。流されてしまいそうなので有希と目を合わせないようにする。
「ベッドで寝ていいよ、俺はソファで寝る。安心して寝込みを襲う趣味もないから」
小銭と家の鍵だけをポケットにつっこむ。有希はまだ状況が飲み込めないようにぼんやりしている。
もう少しだけ待ってあげる。狙うなら完全勝利だ。

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