名残惜しかったけど、有希から出て息を吐いたら、彼女の眉間の皺がようやくなくなった。体中の緊張がほどけていく。
「ごめん」
その姿を見たら、思わず口に出た。
「どうしてあやまるの」
宙をぼんやりと見つめていた有希が尋ねた。
「きっと痛かっただろうし、辛かっただろうから」
「・・・確かにそうだけど。謝ってもらうことではないわ」
有希の手が俺の頬に触れた。
「誠二は十分優しかったよ」
「・・・それはよかった」
ごろりと有希の隣に横になった。腕を伸ばしても苦しくない。キングサイズのベッドを勧めてきた家具屋の店員に感謝する。 しかし、有希はいまだ照れが残るようでタオルケットに身を包むと背を向けた。
「こっち向いてよ」
「・・・冷静になったらすごく恥ずかしい」
「あ、なにそれ。酔っぱらってるわけじゃないっていったのは有希だよ」
「・・・そうゆうことじゃなくて」
「じゃなくて?」
「後悔とか嫌だったとか覚えてないとかそうゆうことじゃなくて・・・」
「うん」
「藤代がいやだったとかじゃなくて」
呼び名が名字に戻ったけどここは流しておこう。お姫様の話を聞くほうが優先だ。
「うん」
「ねえ」
「ん?」
背中からぎゅと抱きしめて有希の肩に頭を乗せた。
「わかってるでしょう?」
「なにが」
「わかってて言わせようとしてるでしょう?」
「んー?」
「ほら!」
「照れ隠しなんだろ、ただの」
あっさりと俺が言うと有希はそうよ、と聞き取れないくらいのボリュームで呟いた。ああかわいい。
肩に口付けると有希が振り返って声を上げた。
「もう無理だってば」
「もうやんないよ。キスだけさせて」
唇をふさぐと有希はおとなしくなった。



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