藤代誠二と藤村成樹には昔からなにか共通点があった、と小島は思う。
何か?ときかれれば具体的には説明できないのだが、あの二人は実はけっこう似ている、とさえ思うのだ。
似てるというのもまた曖昧な言葉だが、それ以外に小島はそれを表現する言葉を知らない。
例えばどちらも楽天的なのに色々考えてるところとか、でも何考えてるのかよくわからないところとか。
どちらもひどく賢く、強い。藤代も藤村も。変に頭が良すぎる所もやっぱり同じだ。

「と、思ったの」
小さな居酒屋の端っこの席で小島はレモンサワーのグラスの氷を揺すって鳴らした。
都内のど真ん中にあるわりに隠れ家的な雰囲気があるこの店は小島のお気に入りだ。音楽も会話を邪魔しない程度に流れていて、料理もおいしい。ただし値段はそれなり、だが。
「それであれか、藤代のいない間に俺を口説きにきたっちゅーわけか」
たまたまが俺が東京におったからって。
すでに4杯目の生ビールのジョッキを片手に藤村は頬杖をつく。
もうひとつあった、共通点。馬鹿みたいに酒に強い。小島は藤代とも藤村とも付き合いは長いが(二人とも中学からだ)一度も酔っ払っている姿を見たことがない。
「そんなとこね」
「否定しないねんな」
「だってあたしシゲのこと愛してるもの」
藤村は予想外の言葉にまじまじと小島を見たが、いたって変化は見られない。
呂律が回っていないわけでもないし、意識もはっきりしている。顔色も通常。
「・・・もう酔ってる?」
「まだよ」
「・・・でもそれは藤代とは違う次元でってことなんやろ」
「そう」
「ふーん」
「だってシゲとは寝たいと思わないし」
あんた上手そうだけどね。
「・・・いうようになったなあ小島ちゃん」
「もう二十歳越えてるのよあたしも」

おんなじFWだし、あ、イギリスだとストライカーって言うほうが多いみたいね、似てるタイプでしょ。 鳴海とか真田くんとはまた違うタイプじゃない二人とも。 背もまあ同じでしょ、あ、誠二のほうが高いか、あとは時々煙草を吸うのも。でももっと中身っていうの、そうゆうのが似てる。精神とか感覚的なものが。

順序良く物事を説明するとき、指を折って数えながら喋るのは小島の癖だ。
中学のときから全然変わっていないと藤村は思う。変わっていないのはもうひとつ、藤代と同じ色をした真黒な髪。
それ以外はすっきりと別人になったように見える。

「藤代は今日試合なん?」
「そう」
「見ないの?」
「んー後で結果は本人から聞けるもの」
「一緒に住んでんやったな」
「うん」

藤代は藤村にとって仲の良い人間といっていい存在だ。
高校になっても交流はあったし、チャンスがあれば一緒に飲みに行ったりもした。お互い日本代表だ、U-15から今のU-23まで。何も予定をつけなくても合宿だ、遠征だ、試合だ、で会う機会は結構あった。

「今日きっと遅いし」
「で、さみしいから俺を捕まえた」
「さみし・・・くはない気がするけど、変な気分にはなったわ、だから来ました」
「浮気かー」
「なんでそうなるのよ」
シゲとはそうならないってば。
「なんかそこまで言われると逆にへこむな」
「あら」
「付き合ったこともない女に言われるとな、余計な」
「試す気もないくせにそういうこと言わないでくださいー」

確かに小島は恋愛関係になるという意味では厄介だ。
もともとこっちの素性は知られてるし、中学のときからの長い付き合いだ。
そうゆう意味でも問題だし(小島は大体の藤村の恋愛遍歴を知っている)なにより、あの藤代の彼女だ。エース藤代誠二の公認の(藤代いわく)最愛の彼女。
藤村が思うにあの史上最強かつ凶悪な男に溺愛されている、という時点で小島はアウトだ。
手を出す出さない、の問題ではない。

「試すなあ」
「そうよ」
「まああれやな、藤代に殺されるしな」
「どうだろ」
「どうだろって・・・いや闇討ちされとうないし」
「シゲなら平気じゃない」
対抗できそう、ケンカ強いじゃない。
「いや、不意打ちならやられるな」
むしろ藤代もケンカ強いやん、蹴りをまともに食らったら死ぬで。
「誠二はシゲに一目置いてるもの」
「試す気もないのにそうゆうこと言わないでくださーい」

さっき、小島が言ったことを藤村はそのまま真似した。
お互いそうゆう気持ちは絶対に抱かないとわかっているからこそ、こうゆう会話が出来る、と小島は思う。
最も友情と呼べる気はしないのだけど。もっと違う、単純だけど説明のつかない関係。

「けど誠二はシゲのことは特別に思ってるわよ」
それは本当。
「え、藤代そんな趣味あったん?」
バイでしたか。
「・・・違うってば、わかってるくせに」
「俺、男にも良くもてるもん」
「はいはい」
「で何がいいたいの小島ちゃんは」

双子みたいよ。どっちが兄とか弟ってならないから。
牽制しあってる割に仲いいでしょ。サッカーにしてもプライヴェートに関しても。ライバルっていうには言葉が軽い気がするし。兄弟とも違うのよ。仲間って言うのも変だし。
うん、なんていうか双子なの。

「双子ね・・・」
「うん双子」
「藤代とな・・・」
「でもこうただの友情じゃない気がするでしょ」
あたしとシゲがそうじゃないように。誠二とシゲもそうゆう風に見えるのはあたしだけかしら?
「こう、名前の付けようがない関係?」
「今日の小島ちゃんはなんか小難しいことばっか言うなあ」
女の子ってけっこう理由つけたりすんの好きやなあ。
「現実主義だから?」
「ちょっと違うやろ、それは」
「で、どう思う?」
「・・・検討の余地ありってとこやな」
「なにそれ」

藤村からみれば藤代と小島も十分、双子みたいなものだ。
くっついて生まれてきたような、愛を持ち合わせて。
よくわからないけど、たぶんそんな感じで。







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