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「恋は曲者」とはよく言ったものだ。 思い起こせば、あの頃の私と藤代は若気の至り、としか言い様のない行為を繰り返していたと思う。 たった16とか17とかの話だからどうしようもなかったのかもしれなかったけど。

高校に入って、私達の生活がお互いとサッカーの2色だった頃。 忙しくて会う回数はそんなに多くはなかったものの、熱情だけはあった。
もうそれは愛してるだの好きだの言ってる場合でもなく、 ただただ情熱としてそこにあっただけなんだと思う。 高校生にしてはずいぶんと本能的なものだったと思う。
けっこう動物的だったとも言える。今なら。ああでもそれは今更かもしれない。 何をしていたかというと、口付け合うことに熱中していたのであった。
会話より何より、その口唇。
それに、没頭していた。 それに、夢中だった。
私も藤代も、頭のネジが吹っ飛んでいた、としか思えない。 いや、実際に吹っ飛んでいたのだろう。

そのころの私達がよくいたのは映画館だ。 私達の生活はサッカーの上に成り立っていたのにもかかわらず、一緒にボールを蹴った記憶は実は大して無かったりするのだ。
だいたい映画にいっても視線はスクリーン、 神経はお互いに向いてる有り様で、 私達には観た記憶があっても内容を覚えていない映画が沢山ある。
要するに自分たちさえいれば場所なんかどこでも良かったのだ。 適度な明るさと周知を飲み込む音と多少心地よい椅子があればそれで。

羞恥心も大してなかったらしく(恐ろしいことに!) ファミレスでウェイトレスの目を盗んでそうゆう類のことをすることにさえ慣れていた。 一瞬の間に唇を重ねるのが酷く楽しかったのだ。
藤代はどこで覚えてきたのか、 吹聴されたのか、 人を赤面させるようなことばかり言っては 報酬を求めて私を組み敷き、 私は私で藤代の囁きを聞き流すふりをしては その首に腕を回していた。

まさに誑かしあっていた、としか思えない光景だった。 実際、誑かしあっていたと思う。
それも付き合って1年以上経っていたときの話なのだ。 若さ故の行為にしても全くもってどうしようもなかった。
その時は何も考えていないし、 それさえあれば良かったし、 藤代はいつでもあたしに手を伸ばしていて、 私もその手が欲しかった。

だから、会っている間はそれしかやる事がないかのようにそれを繰り返していた。 ただ一緒にいる間はバカみたいに繰り返していた。
それが、ひどく、楽しかった。 とてもとても楽しかった。

あれから10年経って、私は藤代の妻で藤代は私の夫だけれどやっぱり相変わらずだ。
誑かしあってるのも、相変わらずだ。

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