「俺、お前がいないと生きていけないかも」
と言ってみた。
「あたしはあんたがいなくても生きてけるわ」
と返ってきた。



バラスト



「冷てえの」
「事実を述べたまでよ」
と小島は鼻歌を歌いながら雑誌のページを繰った。俺のベッドの上で。家主を差し置いてのくつろぎっぷり。 それにそれ、俺まだ読んでないんですけど。 「事実ね・・・・」
「ショック?」
「ん?」
「私もよ、って言って欲しかった?」
「いや、いいけど」
多分、本当に、彼女は自分がいなくても生きていける。
「水野はあたしがいないと死ぬのねー」
小島はどこか嬉しそうに笑った。出会ってもう10年がたつのに、彼女は相変わらず俺に手厳しかった。そして強く、美しく、正しい。
「ああ、そうですよ」
「ふーん」
「なんだよ」
なげやりに言ってやっても、どこ吹く風。正直な心境だっつの。
「なかなか殺し文句じゃない」
「そう?」
「あんたにしては」
「・・・それはどーも。」
ああ。くそ。 でもほんとにただ、いるだけでよかった。 そこにいるだけで。 この人を知らない頃は何もいらなかったのに。
「でも」
「なにもできないわよ、あたしは」
「知ってる」
「あんたのためにはなにもできないよ」
「わかってる」
何も欲しがらないから、ここにいてよ。
できるだけ長く、できるだけそばに。



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