秋色に夢を託す





日誌って面倒ネ、神楽がボールペンで『今日の出来事』の欄を埋めながら言った。
日直の最後の仕事として、日誌の記入に神楽が取りかかっていたのだがいっこうに進んでいる様子がない。
放課後の教室はがらんとしている。
「夕焼けがきれいだった、て完全に日記じゃねえか、しかもお前自身の」
もう一人の日直、沖田は神楽の手元を覗き込んだ。
「他に書くことないアル」
「んなわけねーだろ、山崎君が休みでした、ぐらい書いてやれ」
「面倒アル、お前書け」
差し出された黒い革の表紙の日誌を沖田は渋々受け取る。
神楽が投げてよこしたボールペンで土方への恨み事を書き連らねることにする。
「ねー沖田ァ」
「なんでィ」
土方しね、と23回書いたところで本日の欠席者の欄が完全に埋まってしまった。
「沖田は卒業したらどうするアル?」
座った椅子を危ういバランスで揺らしながら神楽が訊ねた。
沖田は日誌から顔をあげた。
「大学ですかねぃ」
そういやこいつ今日あの分厚い眼鏡してねえな。夕日に染まる横顔の違和感の正体はそれだった。
「普通ネ」
「普通が一番さァ」
「夢のないやつネ」
「そうゆうあんたはどうなんでィ?」
「決めてないアル」
ガタンと音がして神楽が立ち上がった。
「でもきっとみんなばらばらネ」
神楽は窓際に立つと窓を開けた。確かに夕焼けがきれいだ。
「そらあ、ずっといっしょはむずかしいさァ」
「・・・さみしいネ」
窓の外を眺めながら神楽がつぶやいた。
「俺とはなれてさみしい?」
「・・・どうゆう意味ネ、それ」
「そうゆう意味でさァ」
「わからないアル。頭湧いてるのか、お前?」
「ヒデェ言い草だ」
「あれか、お前センチメンタルか?」
「そうかもしれませんなァ」
「じゃあずっと浸ってればいいアル」
夕日が美しく、遠くでカラスの鳴き声まですれば完全に舞台は整っている。
センチメンタルにぴったりの。
「俺はあんたとはなれる気はありませんでィ」
神楽の肩がぴくりと動いた。でもこちらを振り向く様子はない。
「どこまでもおいかけてやりまっさァ」
「・・・ストーカーおことわりネ」
「俺は近藤さんとは違うでさァ」
神楽は相変わらず外に向かって頬杖をついたままだった。
「でも退屈しなくていいネ」
沖田には神楽が笑ったのが、顔を見なくてもわかった。



















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