最初の挨拶





1月1日。(になったばかり)
銀時、新八とともに神楽は初詣に出掛けた。妙と定春も一緒だ。
長谷川は露店でたこ焼きを売っていて、桂もエリザベスと一緒になにやら熱心に長々と拝んでいた。
5円でそんなに願いを叶えてくれるほど神様はいい奴なのか?と銀時に尋ねたら、いや極悪非道な奴だぜ、神様は。と鼻で笑っていたので神楽は10円玉を賽銭箱に投げいれた。
新八が願い事は3個ぐらいにしときなよ、と言ったので、給料が貰えるますようにと、酢昆布が値上げしないようにとの二つにしておいた。多分叶うのは後者のほうだけだ。万事屋の経済状況は相変わらずだ。食費でいっぱいいっぱい。
無料で振舞われていた甘酒をガブガブ飲んだ癖にこれじゃあ酔えないわ、と言って銀時は日本酒を飲みに(正月は日本ぽく過ごすのが彼のポリシーなのだ)今年も出掛けてしまったので志村姉弟と別れたあとは神楽は定春と万事屋に帰った。時刻は1時半に差し掛かる頃で、普段ならとっくに布団の中の時間なので欠伸が止まらない。
一富士二鷹三茄子!と唱えて押入れの中に潜った。



「うおーい」
間抜けな呼びかけに神楽が目を覚ますと沖田がいた。
「・・・何アルか」
フードの付いた冬仕様の制服に身を包み、あんず飴をべろべろと舐めている沖田が押入れの前に突っ立っていた。眠る前に部屋の電気は全部消したはずだが今は明るい。
「いる?」
露店で買ったのだろう、食べかけの飴を差し出されたが神楽はそれを無視した。二十歳になっても相変わらずの子供味覚。前に言ってやったらまだ俺は成長期なんでィと自慢された。
「何してるアルか、むしろ何しに来た」
目をこすりながら尋ねた。寝起きだから手を出すのは勘弁してやる。どっちにしろ力が入らないし。
「おすそわけ」
「・・・これをか」
約半分になった飴を沖田は小さく振った。神楽は上半身を起こした。
「そんな施しはいらないアル。せっかく初夢に挑戦中だったのに、もうすぐ富士山出てきそうだったネ!」
「そりゃあ残念だ。でもチャンスはまだ2回あるぜィ」
硬くなった飴をバリバリと噛みながら沖田が笑った。ほんとに何しに来たんだコイツ。
「一人で飲んでる旦那を見つけたからきっとお前は寂しかろうと思ってきたんだ。俺優しくね?」
神楽の心を読んだかのように沖田が言う。
「・・・仕事は?」
「警備・・・つーか巡回。みんな浮かれてるからねェ」
「巡回して来いヨ!」
「だから万事屋巡回」
「新年初のサボリじゃねーのかヨ」
「そうとも言うな」
「私眠いアル、富士山か鷹か茄子観るまで起きれないアル」
「続きは?」
「続き?」
沖田は食べきった飴の棒をゴミ箱に投げ入れると、一富士二鷹三茄子には続きがあるんだと言った。
「そうなのカ?銀ちゃんそこまでしか教えてくれなかったヨ」
「四扇、五煙草、六座頭」
「へー知らなかったヨ。お前実は賢いナ」
「ガキの頃、姉上から聞いた」
「煙草なら大串君の夢でもみればバッチリアルな!」
「・・・それはちょっと」
「なんで?」
「なんでも。代わりに俺が鷹匠になって富士山をバックに茄子食って出演してやるから」
「・・・お前、やっぱりバカだナ」
「うっせ」
未だに照れる癖にそうゆうことを言う度胸はある変な奴だ。
沖田はうっすらと頬が赤いのを隠すように下を向いた。
手をのばして頭を撫でてガキ、と言ってやると沖田は顔をあげてオメーのことだろ、と睨んで神楽の手を掴んだ。
「手つめたい」
「さっきまで真面目に仕事してたんでね」
掌が沖田の頬にあてられた。
「顔はそうでもないアル」
「あーあったけえなお前の手」
「布団の中に入ってたからネ」
「あー仕事戻りたくねーなー」
「行ってこいヨ、不良警官」
「あけましておめでとう」
「いきなりアルな」
「まだ言ってなかったなと思って」
「そうネ。あけましておめでとう」
もう一月一日になっていたのだ。新年に突入だ。
「今年もよろしく」
そう言って口付けられたので、両手を伸ばして抱きしめてやった。
「よろしくアル」
「マジで行きたくねー。どっかでケンカとかもう起きてんだよきっと」
「わかってるならさっさといくヨロシ」
「つめてー奴」
「手はあったかいデショ?」
沖田が渋々と出ていくのを見届けてやると神楽はもう一度布団にもぐった。


3つ願うならあと一つ。
今年も一緒にいられますように。 




















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2010年もよろしくお願いします。
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