ポップ アタック





大きなガラス窓を開けたら、思いのほか車の騒音がうるさかったので沖田は一度開けた窓を閉じた。
ここ7階なのになァ。
隊服のズボンを腰に引っかけただけの姿でガリガリ君をかじりながら外を眺める。
気持ちよく晴れた午後1時。さてこれからどうしようかねェと思案していると後ろから声をかけられた。
「うっとおしくないアルか?」
振り返ると部屋の真ん中に設置されたベットの上に座った神楽が沖田のシャツに腕を通しているところだった。
「なにが?」
「前髪」
栗色というより金に近い髪を沖田は自分でつまんでみせた。
「これ?」
「そうアル。目に入って痛そうネ」
「あー確かにちょっと伸びちまったなァ」
白いシャツの前ボタンを2個止めただけの格好で神楽がぺたぺたとこちらに向かって歩いてきた。
「服ぐらいちゃんと着ろい」
ガリガリ君を口にくわえてもう一つ、神楽のボタンを閉めてやる。
「上半身裸のお前に言われたくないアル」
「俺はいーの」
「お前いつ鍛えてるネ?」
脈絡のない話をされて言葉に詰まるがいつものことなので気にしない。腹の真中に手のひらの感触。神楽の手が沖田の腹筋を撫でていた。
「俺がもくもくとトレーニングするキャラに見えるかィ?」
「見えネーから聞いてんダロ」
「結論からいうとしてません」
「あそ」
沖田は冷蔵庫からガリガリ君を出してやって神楽に渡した。神楽は小さく礼を言うとすぐに食べ始めた。
「切ってやろうカ?」
「できんの?」
視線をすこし下に落として神楽を見る。神楽はすこし上にあげて沖田を見た。
「なに言ってるアル。私はかつてカリスマ美容師と呼ばれていたらよかったのになぁ〜」
「ネタをパクるな」
しゃくしゃくと音をたてて食べ進める。はずれ。忌々しくあらわれてきた棒の文字を一瞥した。
「まあ後ろ髪はこんくらいでいいとして前髪は切りてえなァ」
「今切ってやるヨ」
「ハサミとかあんの?」
「お前の刀があるダロ」
「どんだけカリスマだよ」
神楽がどうしても切りたいようなので屯所へ帰ることにした。(このままでは愛刀で頭ごとがっつりやられてしまう)庭で切れば面倒が少なくていい。
神楽のアイスも残念ながらはずれだった。二人とも当たったためしがない。


「ヤーマーザーキー」
屯所に着くと山崎が大量の書類を抱えて歩いているところだった。
「あー沖田隊長おかえりなさい。てゆか今日オフじゃないでしょう!なに遊んでんですかぁ、チャイナさんと!」
沖田の隣に神楽の姿を見つけると山崎はすかさず叫んだ。
「今日は午後から休みなんでィ」
「え、そうでしたっけ?」
「さっき俺が決めた」
「それはただのサボリです」
「ともかくハサミ出せハサミ」
「ハサミ?部屋にあると思いますが・・・何に、」
使うんですか?という山崎のセリフを聞く前に神楽が走り出していた。
「ジミーの部屋アルな!」
「え、ちょ、って隊長 なにに使うんですか?」
神楽の後を追って去ろうとする沖田に山崎が訊いた。
「散髪」
「まじで?」
「おうカリスマ美容師がいるんでィ」


真選組屯所中庭。
ど真ん中に椅子を置いてそこに沖田が座った。
シャキシャキとハサミを鳴らして神楽が沖田の頭を見下ろした。
「どういたしましょう、お客様?」
「まともならなんでもいいでさァ。ともかく人に笑われないレベルで、いや、人だとわかるレベルで」
「お前カリスマなめんなァ!」
「お前の腕なんぞ信用できるかってんだ、あ、なんか今猛烈に不安になってきた、まだ山崎のマシかもしれないと今思ってきた」
「ジミーなんかに負けるわけないネ!」
「山崎は地味さにかけてはおまえんとこのメガネよりすげえからこうゆう細かいことに向いてるんでィ」
「とにかく切らせるヨロシ!」
もうここまで来たら一切の抵抗は無駄だし、解放してくれる訳がない。
突然、音がしたと思ったらぱらりと金色の髪が落ちた。


「なートシ」
「なんだ」
縁側に土方と近藤が並んで座っていた。中庭でさっきから繰り広げられている大騒ぎを眺めながらお茶をすする。
「総悟はなんだかんだいって仲良しだなあ、チャイナさんと」
「そうか?まもなく血が流れそうだけどな」
「楽しそうでなによりだ」
土方は煙草に火をつけた。

最終的に。
意外にも神楽は慎重にハサミを使い、沖田の前髪は人だとわかるレベルに落ち着いた。

















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脈絡がないのは私です。沖神はまわりのみんなからほほえましく思われているといいと思います。
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