スペクテイター





「・・・サドって強いのカ?」
リズミカルに包丁を使いながらほうれん草をザクザクと切っていく新八に神楽は訊ねた。
銀時が仕事(と称したパチンコ)に出たまま帰ってこないので二人でさっさと食べてしまうことにした。新八と神楽が並んで調理をするのはそんなに珍しいことではない。神楽はどっちかというとアシスタントだが。本日の夕食は豚しゃぶ。やっぱり万事屋は貧乏なので牛肉にはなかなかありつけない。
底の深い鍋の中の薄切りの豚肉の色がみるみる変わっていく。
「サドって沖田さんのこと?あ、神楽ちゃん、火が通ったらもう鍋からあげちゃって」
「りょうかーい。そうアル、サド沖田のことアル」
ザルに鍋の中身を全部空ける。茹でたての豚肉の匂いが台所に漂う。
「剣の腕なら一級品だよ。僕と二つしか違わないのに」
「ふーん」
「ふーんって会えば喧嘩ばっかりしてるんだから神楽ちゃんが一番わかってるじゃないの?」
「そんなことないネ、自分より弱いことしかわからないネ」
「まあ神楽ちゃんからすれば、地球人はそうかもしれないけど・・・でも沖田さんは天才ってやつじゃないかな。僕も自分がやってるからわかる」
「新八より強いアルか?」
「もちろん。さあ食べよ。銀さんが帰ってくる前に全部食べちゃお」
そうか、アイツは強いのか。
神楽は味噌汁を飲みながら思った。
インスタントを使わずに出汁をしっかり煮干しと鰹ぶしから取る新八の味噌汁はいつもおいしい。
「で、沖田さんがどうかしたの?」


***


今日の昼間の出来事だった。
駄菓子屋で買い占めた酢昆布を抱えて歩いていたら、サドこと沖田総悟が前から歩いてきた。
そして神楽を一瞥すると「貧乏くせーものばっか食ってんなァ」と笑った。
頭に来たので先制攻撃。
かわされたのでもう一発。今度は掠めた。
そんな風にいつものケンカが勃発。
一連の流れを神楽が説明するといつもの二人の様子のなので別段、新八は驚きもせず「ケガだけはしないでね」と白米を咀嚼しながら言った。
「どうにかアイツに一泡吹かせたいアル」
沢庵を音をたてて噛みながら神楽はメインディッシュに手を伸ばした。
「うーん、それはむずかしいかもねえ」
「なんでアルか?」
「沖田さんは若いけど、神楽ちゃん並に実戦経験あると思うよ、仕事だしね。そうゆうひとは場慣れしてるっていうか、競技じゃなくてルールなしでも勝てるってタイプなんだよ」
「不意打ちみたいの食らわせてみたいネ」
「たとえ闇討ちしても普通に反撃されそうだねぇ」
「なんで新八、そんなにあいつの肩もつカ」
「肩もつって、実際神楽ちゃんだって普通に戦っても引き分けるけど、勝てはしないんでしょ?」
「それはまだ本気出してないだけアル」
「いやいやいや・・・・」
グラスの麦茶の氷が溶けて音を立てた。
「本気出したら余裕で勝てるネ」
「・・・・でも練習相手には調度いいんじゃないの?拮抗する力持ってる人、神楽ちゃんにはあんまりいないでしょ」
「それはそうアルな、ダメガネじゃあ私の一発TKOネ」
「今ダメガネって言う必要なかったよね?」
新八を無視して神楽は続けた。
「そうゆう意味じゃサドは必要アルな。存在を認めてやってもいいネ」
「どこまで上目線なの・・・・」
定春が大きな欠伸をした。


















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馴れ初めというかなんというか。もうちょっと続きます。
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