under the moonlight





沖田の隊服のスカーフ(正式名称は知らない。沖田自身も知らないだろう)を解くのが神楽は好きだった。
これが彼の首元からするりと落ちると真選組一番隊隊長から沖田総悟になる気がするから。
いつかそのことを伝えたら「ただの平隊士になるだけでィ」と言われた。自分の目の前に座る沖田を見る。全く分かっていない男だ。
それに制服を脱ぐと彼はぐっと優しくなる。たぶん。


沖田は昼間、仕事をさぼってふらりと万事屋にやってくるのが常で夜に来ることは稀だ。それも決まってすでに新八が帰って銀時が夜出歩いている時だけ。
俺はカンがいいからあんたしかいない時がわかるんでさァと得意気に言ったりもする。今夜だってもう寝ようと思った時に息を切らせて走りこんできた。例によって新八は帰宅し、銀時は飲みに出ていたあとだった。
不機嫌な顔で定春と一緒に玄関に行くとああ、よかったというように笑ったのでしょうがなく迎え入れてやった。
「もう寝ようと思っていたところアル」
「明日は日曜だから夜更かしできますぜィ」
そういって神楽の頬と定春の頭を順に撫でた。沖田の手は熱かった。


明かりの落ちた部屋は薄暗かったが月明かりだけでも表情がわかるくらいだった。
今夜のかぶき町は静かだ。車の騒音も人の声もしない。
定春も自分の定位置に戻り大人しく丸まっているんだろう。家の中も静かだ。
沖田はにやりと笑って(本人はにっこりと笑っているつもりだろうけど)神楽の手の中の白いスカーフを畳に落とすと胡坐をかいたまま、器用にこちらににじり寄ってきた。
ゆっくりと髪を撫でられた。髪を結い上げていなかったので桃色の髪が沖田の指の間をするすると通る。
沖田の骨ばった手に神楽は自分の手を重ねた。
来るなと思ったら唇が重なった。お互い、かさかさだ。皮がめくれてくっついてしまいそうだ。 「一応、女の子なんだからリップクリームでも使ったらどうなんでィ?」
「・・・余計な御世話アル」
「でもまあその方があんたらしいけど」
沖田の腕の中に引き込まれた。身動きができない。いつもはケンカを売ってくるだけの沖田にこうゆう風にされてしまうどうしたらいいか最初はわからなかった。理由もわからなかったし。でも最近理解した気がする。ただ甘えているだけなのだ。だからなにもしなくていい。
沖田の心音がよく聞こえる。だんだん落ち着いてきたのがわかる。全力疾走のあとのクールダウンのような感じ。音の間隔が広くなってくる。
腰に手をまわしてやると気を良くしたのか、ぎゅっと力を込められた。
神楽は自分の額を沖田の胸に当てる。 沖田は鼻先を神楽の髪にうずめた。
あんたはいつもいい匂いがする。かすれた声で沖田が呟く。
顔を上げると沖田とまっすぐ目があった。大人しい時の沖田は綺麗な顔をしている。
じっと眼を見るとどうしたと問われたので首を振った。そうしたら唇をかまれた。

夜に会うお前はいつも血の匂いがするなんて神楽は言えなかった。





















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初!沖神。人を斬る仕事の後、沖田は必ず神楽に会いに来る。
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