「ねー近藤さんー」
私はさっきからずっと捜査資料を読んでいる近藤さんに声をかけた。
近藤さんの部屋は少し散らかっていて、土方さんとお揃いの真っ黒の机の上には飲みかけのジュースの缶が2本並んでいた。
部屋は畳だけど縁側は板張りでつるつるしていて、私はごろごろと転がりながら縁側に腰かける近藤さんの隣へ移動した。制服の金具がかちゃりと鳴った。
「んー?なんだー?」
生返事に近いけどいつもちゃんと答えてくれる。ぺらりと音がしてうつ伏せで寝転がる私でも近藤さんがページを繰ったのがわかった。
ここからじゃ顎髭しか見えない。
「いつになったらそれ終わるんですかィー?」
「もうちょっとー」
「さっきもそう言ったー」
近藤さんの“もうちょっと”は長い。ちょっとだなんてことはいつもない。仕事の時も遊んでる時も。物足りないときの言い訳だ。忙しくても口に出さない。部下がこんな所に寝っ転がっていても。
「退屈なら山崎にでも遊んでもらいなさい」
またぺらりと音がした。近藤さんの視線は相変わらず書類だ。
「やーまーざーきー」
近藤さんの提案に乗っかって寝返りを打って名前を呼んでみたら遠くから返事がした。さすが監察。
「はい、はい、どうしたんですか?沖田隊長」
ぱたぱたと足音がして山崎がやってきた。
「悪いなあ山崎、今ヒマか?総と遊んでやってくんない?」
私が口を開くより前に近藤さんが喋り出した。
「暇ではないですけどあとちょっと出なくては・・・今日は張り込みです」
少し申し訳なさそうな顔して山崎が言った。
「だってさ、総」
私は黙った。近藤さんが苦笑しているのが顔を見なくてもわかる。
「ごめんな山崎、もういっていいぞ」
すいませんと聞こえて足音が離れていく。山崎め。実は土方さんに次ぐ仕事中毒だと思う。土方2号って呼んでやる。
むくれていたら頭を撫でられた。そして近藤さんは笑いながら私を覗き込んだ。
「残念だったなー総。永倉はどうだ?」
「永倉は土方さんと外に出てったー」
非番でもないのにこんな所にいられるのはそのせいだ。
近藤さんは私がサボっていても怒らない。転寝をしていても、どこかに遊びに行ってしまっても。躾はトシに任せてある、と言う。
昔から怒るのは土方さんの役目だった。姉上でもなく、近藤さんでもなく。
トシは俺なんかよりよっぽど世の中のことが分かっているし、ルールが理解できている。
近藤さんはそう言う。
だから土方さんが私を叱る。そして近藤さんが慰める。そうゆう図式が出来上がっている。
「もうちょっとで終わるから」
「ほんとですかィー?」
そう言ってても、もうちょっとじゃないことを知ってるけど、それでも。
「ほんと、ほんと」
私のわがままにいつも付き合ってくれるから納得したふりをするのだ。







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